わたしたち人間には、親知らずの歯を除くと、上下の顎にそれぞれに14本、計28本の歯があります。 お口を閉じたときには、それらの上下の歯が接触することになりますが、その接触する動作や関係のことを、かみあわせ(=オクルージョン)といいます。
そして、上下の歯をかみあわせた時には、おおよそ自分の体重と同じ力が歯にかかっているといわれています。さらに歯ぎしりや、くいしばりをしているときは、もっと強力な負荷が歯にかかっているのです。
そのため、くいしばりの時には、臼歯(奥歯)が前歯を保護し、歯ぎしりをしているときには、前歯が臼歯(奥歯)を保護しているのです。
これら相互に保護しているかみあわせのことをオーガニック・オクルージョン(有機咬合)といいます。
臼歯(奥歯)には、かみあわせの高さを維持するという役割があります。歯をかみあわせたときの強力な力に対して、臼歯(奥歯)は骨に強固に結合して、前歯を守っているのです。
しかし、何らかの理由(虫歯になってしまった、歯周病で歯が動く、歯を失ってしまった、かみあわせが悪くなってきたなど)で、臼歯(奥歯)の噛み合わせの高さが低くなってしまった場合、前歯が強く当たってくるようになります。
このことは前歯にとっては、かなりの負担になります。前歯が欠けてしまったり、または差し歯がとれてきたり、挙句の果てには、歯周病になってしまい、前歯がぐらぐら動き始めるようになるのです。
「前歯はとても大切なので、なんとかもたせるようにして欲しい…」と希望される患者さんがいらっしゃいますが、もし前歯を大切にしたいと思うならば、奥歯を大切にしなければなりません。
そして前歯には、あごを動かす時、顎を誘導する役割があります。
とくに顎を側方に動かすときは、なるべく臼歯(奥歯)が接触しないように、前歯がうまく誘導しないといけません。
なぜならば、臼歯(奥歯)どうしで歯が当たってしまうと、歯に相当な負担がかかるだけではなく、顎の筋肉や関節までも負担がかかってしまうからです。
いままでの歯科医療では、虫歯があったら削って詰めるなど、治療に対する考え方の範囲がせまく、比較的簡単に考えがちです。
しかし私たちの口腔の機能は、じつは想像以上に複雑で、システム全体として捉えないとなかなか理解ができません。
そのため、天然の歯を守るためや、何度も治療を繰り返さないためには、このような自然のシステムを理解することが非常に大切なことなのです。